悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 ぼうっとしていて後ろからバイクが迫っているのに気づかなかった。
 咄嗟に頼久が腕を伸ばし、つかさの肩を抱き寄せる。

 すぐ横をバイクが走り抜けていくのを見て、頼久がいなかったら轢かれていたかもしれないと肝が冷えた。


「危なかった……」
「ごめん、ありがとう」


 頼久はつかさの肩を掴んだままなので、彼の顔を覗き込もうとした。


「あの、頼くん? もう大丈夫だよ?」
「……っ」


 離れようとしたら、ものすごい力で抱きしめられてつかさは頼久の胸の中にいた。
 何が起こったのか全くわからなかった。


「よ、頼くん……?」
「……! すまない」


 急に頼久は我に返り、つかさを離す。
 その表情は少し動揺しているように見えた。


「……なんでもない。そろそろ帰ろう」


 頼久はクイッとメガネを押し上げる。
 なんでもないと言っているが、明らかに様子がおかしい。


「頼くん、ごめん。私ぼうっとしちゃってて。その、気をつけるね……?」
「ああ……」
(バイクに轢かれそうになって心配かけたのかなと思ったけど、そうじゃなかったかな)


 その後の帰り道、頼久との間に会話はなかった。
 それどころか目も合わなかった。

 少し距離が縮まったと思ったのに、また見えない壁に阻まれたようだった。
 抱きしめられた時はゼロ距離だったのに、心の距離は数キロも離れているような気がする。


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