悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。
惺久に聞くのはなんだかずるいような気がしたが、気になったので尋ねてみる。
「なんだか頼くん落ち込んでるみたいなんだけど、仕事で何かあったのかな」
《落ち込む?》
電話越しで惺久が考えている雰囲気を感じ取った後、《……ああ》と少し低い声が聞こえた。
《もうすぐ相田さんの命日だからか》
「アイダさん?」
《頼久の友人に相田克也さんという人がいたんだが、頼久が大学四年の時に亡くなっているんだよ。彼の命日が確か、明日なんだ》
頼久が友人を亡くしていたとは思わず、声が出せなかった。
《相田さんはサッカーをやっていてプロを目指していた。だが交通事故に遭い右足の靭帯損傷という大怪我を負ったんだ。事故の原因は煽り運転だった》
「煽り運転……!」
《裁判で戦ったけれど、運転手の煽り運転は証拠不十分で認められず過失運転致傷罪となった。運転手はなかなかに裕福だったらしく罰金を支払い、とっとと釈放されてしまった。相田さんはこの怪我でプロへの道を閉ざされたのに納得いかなくて――後に自殺してしまったんだ》
「そんな……!」
つかさは惺久の話を聞きながら、スマホを持つ手の震えが止まらなかった。
《この事件をきっかけに頼久は弁護士ではなく、検事を目指すようになった》