悪辣検事は初恋妻をこの手に捕らえて逃がさない。


 あんなに立派な弁護士になるのだと真っ直ぐに夢を語っていた彼が検事になった理由が、やっとわかった。
 そんなに悲しい理由だったとは知らなかった。

 言葉にならない思いが涙となって溢れる。


「私、全然知らなかった……っ」
《つかさちゃんの前では平気なフリをしていたかったんだろうな。明日で十年が経つけど、未だに頼久は相田さんの死を引きずっているんだ》


 デートの日、バイクに轢かれそうになったつかさを必死に庇ってくれたのもその後様子がおかしかったのも、相田のことがあったからだった。

 どんな犯罪者も許さないのは相田のような人を出さないためだ。
 以前傍聴した裁判もそうだ、正当防衛が認められたら軽い刑で終わり殺された被害者は浮かばれなかっただろう。

 たとえ悪辣検事と呼ばれようとも、その信念は曲げられなかったのだ。


《頼久はああ見えて本当は繊細だから、支えてやって欲しい》
「うん……教えてくれてありがとう」
《よろしく頼むよ》


 電話を切ると、もっと涙が溢れる。
 一番つらかった時にそばにいてあげられなかった。

 要の事件の再捜査をすると言ってくれた理由もわかったような気がした。

 結婚という取引を冷酷に持ちかけてきたくせに、本当はただ心配してくれていただけなのかもしれない。
 敢えて取引という形にしたのは、互いにメリットがあると思わせることでつかさに気を遣わせないようにしたのかもしれない。

 しばらく泣き続けたが、程なくして涙を拭い自分の頬をパン! と叩く。
 充分泣いたのだ、頼久の前では絶対に泣かないと決めた。


(これからは私が頼くんをそばで支えたい)


 書類上の妻だろうが関係ない、つかさがやりたいと思ったから頼久を支えたい。
 いくら壁をつくられようとも知らない、飛び越えてやるまでだと思った。


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