『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 今日は早朝に起床し、家事を終わらせて買い出しに行った。すでに夕食の下ごしらえは済んでいて、あとは航生の帰りを待つばかりだ。

 環境は劇的に変わっているのに、長年の緊張と心労が沁みついているせいか、紗月は力を抜く感覚を思い出せずにいた。

 ニュースでもチェックしようと手に取ったスマートフォンが軽く振動する。

 《今から帰る》というメッセージは航生からだった。

 彼の勤めるOGセラミックの本社は虎ノ門にある。車なら十五分ほどで帰宅できるだろう。紗月は夕食の仕上げをするために立ち上がった。

 紗月の予想どおりのぴったり十五分後、航生が帰宅した。

「ただいま」

「おかえりなさい、お疲れ様」

 紗月はキッチンに立ちながら航生を出迎える。彼のスーツ姿は一日仕事をしていたにも関わらずまったくくたびれていない。

「いい匂いがする。今日はなに?」

 ネクタイを緩めながら彼はコンロを覗き込む。

「昨日は魚だったから今日は鶏の照り焼きだよ。でもよかった? 今さらだけど好き嫌いちゃんと聞いてなかったから」
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