『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 少なくともこれから二年間は彼の食事を作るのだから、好みをしっかり把握した上で栄養バランスが取れた食事を提供したい。

「苦手な食べ物はないよ。強いて言うなら、好物は紗月が作るものかな」

 航生は楽しそうに顔を綻ばす。

「まだ数えるほどしか作ってないのに」

「今まで食べたどれも美味しかった。なにより、紗月がその手で俺のために作ってくれたっていうだけで、もう十分に尊い」

「えっと、航生君?」

「着替えてくる」

 戸惑う紗月にもう一度笑いかけ、航生は軽い足取りでキッチンを出ていった。その広い背中を見送りながら紗月はこそばゆい気持ちになる。

 まだ一緒に暮らし始めて一週間しか経っていないが、紗月を全肯定しようとする姿勢は一貫してるから、戸惑ってしまう。

「この照り焼き、甘味もちょうどよくて好きな味だ」

 夕食が始まると、ダイニングテーブルに並べたメニューをひとつひとつ褒めながら航生は箸を伸ばす。

「ちょっと味が濃かったかなって心配だったんだけど」

「このくらいの方がご飯が進むよ」

 航生は大きな口でどんどん平らげていく。それを見ているだけで紗月は嬉しくなる。
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