『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
(会社勤めの頃は、自分のための夕食すらろくに作れなかったからなぁ。久しぶりにきちんと料理をして、ちゃんとした味になっているのか少し不安だったけれど、航生君の口に合ったみたいで良かった)

「紗月、箸が進んでないな。もう少し食べた方がいい」

「もう、お腹いっぱいになっちゃった」

 航生に指摘されて、紗月は眉を下げた。

 一度細ってしまった食欲は、そう簡単には戻らないようだ。食べたい気持ちはたしかにあるのに、少し口に運ぶだけで胃が重くなり、それ以上は受けつけてくれない。

 器に残った味噌汁を飲み、「ごちそうさまでした」と手を合わせる紗月を見て、航生は複雑な表情を浮かべていた。

 夕食後はふたりで片づけをして、航生が食後の飲み物を作ってくれる。それがルーティーンになりつつある。大学生からずっとひとり暮らしをしていた航生はなにをさせても手際が良かった。

「はい、どうぞ」

 リビングでソファーに座り、航生が差し出したマグカップを受け取る。温かいココアだ。

「ありがとう。ごめんね、私だけのためにわざわざ作ってもらっちゃって」
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