『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 ここに引っ越してきた当日、航生は紗月のために小鍋で丁寧にココアを作ってくれた。その本格的なおいしさに感動していたら、頻繁に振る舞ってくれるようになった。

(本当においしい。いつもお湯かミルクを注ぐだけだったけど、ちゃんと手間をかけると味は変わるんだな)

「いや、大して手間じゃないよ。それに、紗月が喜んでくれるなら作り甲斐がある」

 紗月の隣に腰掛けた航生は、自分用にサーバーから淹れたコーヒーを口に運ぶ。

「ああ、そうだ。今日会社で父に結婚を報告しておいたから」

 甘い香りを楽しんでいた紗月は、さらりと告げられた言葉に思わず目を瞬かせた。

「えっ、会社で?」

「ごめん、ココアがまずくなるような話をして」

「それはいいんだけど、お義父様はなんて?」

 慌てる紗月に対して航生は涼しい顔だ。

「ああ、案の定驚いていたし、勝手なことをするなと怒っていた。まぁ、認めるもなにも結婚したあとに反対できないからな。こっちの思惑通りだ」

「でもやっぱり、改めて実家にご挨拶に行った方がいいんじゃない?」

「必要ない。面倒になるだけだ」

 航生は落ちつた様子でカップを傾けている。
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