『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
(本当に、それでいいのかな……)

 以前〝会っても嫌な気持ちになるだけだ〟と大須賀家の挨拶は不要と言っていた航生。

 あれほど紗月の実家へは誠実に対応してくれたのに、いくら軋轢があったとしても家族に対して淡泊すぎはしないだろうか。とはいえ、あくまで便宜上の妻である紗月がでしゃばるわけにもいかないのもわかっていた。

「私、嫌味とか理不尽とかだいぶ耐性ついてるから、気にしなくても大丈夫だからね?」

 なまじ、ブラック企業で耐え続けてきたわけではないのだ。多少の精神攻撃くらい受け流せる。

「いや、俺が気にするんだ」

 航生の顔を覗き込むと、彼は困ったようにかぶりを振った。


 マンションに私室はあるものの、紗月は航生の寝室で寝起きしている。『夜は一緒に寝ないか』と彼に頼まれたからだ。

 今日も寝支度を済ませ、紗月は寝室のドアを開けクイーンサイズのベッドに体を滑り込ませる。ドアに近い方が紗月の定位置だった。
 端の方で布団にくるまっていると、スウェット姿の航生が入ってくる。静かに紗月に近づくと体を屈め、大きな掌で髪を撫でた。

「おやすみ」

「……おやすみなさい」
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