『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 彼は部屋の電気を消し、ベッドの反対側に身を横たえる。ふたりの間には人ひとり分の距離があった。

 しばらくすると、隣から規則的な寝息が聞こえてきた。

(変に意識していたの、私だけだったみたい……)

 酔った勢いとはいえ、自分たちはすでに一度関係を持っている。名目上は夫婦でもあり、同じベッドで眠ることにそれなりの意味があるのを理解していたつもりだった。

 しかし、これまで航生はそういった意味で紗月に触れることは一度もなく、文字通りこうして一緒に寝るだけの日々が続いている。
 ホッとすると同時に、どこか肩透かしをくらったような気持ちになるのはなぜだろう。

(やだ、期待してたわけじゃないのに)

 紗月はいたたまれなくなって頭から布団をかぶった。

『もし、俺が君に惹かれてるって言ったら、どうする?』

 再会した夜、航生にそう告げられた言葉を、紗月は何度も思い返していた。そのたびに、あれは酔った勢いで零れただけだと、自分に言い聞かせている。

 きっと彼は偶然の再会に紗月に興味を持ち、食事に誘い、酒が入った勢いでああやって誘惑し関係を持った。ただそれだけだ。
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