『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 すると、隣から身じろぎする気配を感じた。

「紗月?」

「あ……」

 暗闇の中で視線が交わる。航生はゆっくり身を起こしこちらに体を近づけてきた。

「大丈夫か……怖い夢、見た?」

「うん、ちょっと……ごめん。起こしちゃった」

「謝らなくていい」

 静かな声と共にそっと抱き寄せられる。広い胸と温かい腕に包まれ、初めて紗月は胸の奥に残っていたざらつきが和らぐのを感じた。

「辛かったな……でも、もう大丈夫だから」

 航生は紗月の背中に手を回しゆっくり擦ってくれる。優しい手つきと労わるような声に涙がこみ上げそうになるのをこらえる。

(あったかい……)

 幼い子どものように慰められている内に、すっかり体から抜けた紗月航生の胸に顔を埋めながらうとうとし始める。

「眠い?」

「……うん、眠い」

 耳元に落とされた優しい囁きに、夢と現の境目が曖昧になる。

「……紗月、このまま一緒に寝てもいいか?」

「ん、いい、よ……」

 眠気に抗えなくなった紗月は素直に返事をする。その方が安心するという気持ちは声に出ていたかはわからない。航生は慎重な動作で紗月を横たえ、長い腕でふわりと包み込んだ。
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