『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 それに引き換え、仕事に追われ、睡眠も栄養もろくに取れていない紗月は、肌も荒れがちで、ヘアメイクも最低限。アクセサリーひとつ身に着けていなかった。

 居心地の悪くなった紗月はさりげなく視線を外す。

(私のせいでこの人を巻き込んじゃったのよね、こんなことなら飲んで帰ろうなんて考えなければよかった)

「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」

 今日はいつもに増して散々な日だ。すぐに家に帰ろう。そう決めた紗月はやるせない気持ちでもう一度深々と頭を下げる。しかし彼からの返事はない。

「やっぱり……か」

 少しの間の後、ため息交じりの声が落ちたがはっきり聞き取れない。

「あの……?」

 顔を上げて視線で問う。すると、これまで硬かった彼の表情が優しく崩れた。

「お互い飲み足りないですよね、よかったら付き合ってもらえませんか」
 
 大須賀(おおすが)と名乗った男性は、居酒屋から歩いてすぐの裏路地の静かなダイニングバーに紗月を誘った。

(思わず付いてきてしまったけど、よかったのかな)

 間接照明が柔らかに照らす静かな店内。テーブル席に通された紗月は戸惑いながら腰を下ろす。
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