『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 初対面の男性と飲みに来るなど普段の紗月ならありえない。でも、彼に『男に絡まれた女性を直後に誘うなんて、非常識でしたね』と申し訳なさそうに眉を下げられたら罪悪感が刺激され『いえ、大丈夫です』と了承してしまった。

(でも助けてもらったんだし、変に警戒したら失礼よね。それに、これほどのイケメンさんが私をどうこうしようなんて思えない。一杯お付き合いしたら今度こそ帰ろう)

 紗月は早々に切り替え、向かい側に座った大須賀と同じジン・トニックを注文した。

「大須賀さん、二十八なんですか」

 最初に感じた硬い雰囲気とは裏腹に、彼は驚くほど話しやすかった。

 次々と話題を振ってくれるおかげで、紗月の中にあった緊張は少しずつ溶けていく。居酒屋ではただ苦いだけだったアルコールも、なぜか美味しく感じられる。

「実は、私も二十八になったばかりなんです」

 トニックの甘みと炭酸の刺激、鼻に抜けるジンの澄んだ香りを確かめるように、紗月はグラスをゆっくり傾けた。

「同い年か。じゃあ、お互い敬語はやめようか」

 彼も穏やかな表情でグラスを口元に運ぶ。

「そうですね……じゃなくて、そうね」
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