『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 揶揄うように尋ねられて、照れながら切り返す。すると彼女は嬉しそうに最近婚約したと報告してくれた。

《就業環境も劇的によくなりそうなので、私たちは共働きでがんばります。ほんと、OGセラミックには大感謝ですよ》

 この買収によって現場で働く人に恩恵があるとわかり、紗月は心から安堵した。

(共働きかぁ……)

「ねぇ、航生君。私またなにか仕事しようかな」

 ここのところずっと考えていたことを口に出してみる。心身が立ち直ってくると、生まれ持った庶民の血が騒ぎだす。どうも自分が楽ばかりしている気がして落ち着かないのだ。

「仕事?」

 航生は静かにグラスをテーブルに戻す。

「うん。アルバイトでもいいから外で働きたいな。もちろん、航生君に迷惑を掛けない範囲で」

 普段、基本的な家事は紗月が担っているが、航生は非常に強力的で紗月の負担は驚くほど軽かった。

「まだ早いんじゃないか。そもそも働く必要も無いし。安易に働きに出て、また変な職場だったら大変だろ」

 航生の顔は明らかに曇っている。

「さすがに大丈夫だと思うんだけど……」
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