『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 本妻である典子は烈火のように怒り、反発した。しかし、当時当主だった航生の祖父に窘められた。なぜなら祖父も父と同じように愛人を囲った過去があったらしい。

 典子の怒りの矛先はすべて親子に向かった。『働かないで養われようなんて思わないで』と言って産後すぐに母を家政婦に復帰させ、辛い仕事を選んで与え、少しの落ち度を見つけては激しく叱責した。

 航生は正門からの出入りも、目のつく場所で遊ぶことも許されなかった。見つかると必ず母がなじられるのを知っていたので、航生は常に物陰に隠れてひとり遊んでいた。

 父は多忙なうえ、資産家の実家を持つ妻への遠慮もあって離れに足を運ぶ機会はほとんどなかった。その結果、航生の存在は徐々に〝なかったもの〟として扱われるようになった。

 そんな生活に耐えきれなくなった母は、航生が中学生になる前に一念発起し、屋敷を出てふたりで暮らし始める。使用人も辞めた。

 新しく見つけた仕事は建設会社の事務職だった。慣れない業務に苦労しながらも母は息子のために懸命に働いてくれた。
< 121 / 235 >

この作品をシェア

pagetop