『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『私のことはいいの。事情を話しておくから、あなたは大須賀家に行きなさい』

 母がそう言ったのは、自分がいなくなったあとの息子の行く末を案じていたからだろう。

 けれど航生は断固拒否する。大須賀家には二度と戻りたくないし、離れるよりも、せめて少しでも長く母のそばにいたい。ただ、それだけを考えていた。

 母の入院している病院で永井紗月と偶然顔を合わせたのは、夏休みに入ってすぐだった。廊下でふらついた母を、彼女が介助してくれたのだ。

 紗月は学級委員でクラスの中心的存在。真面目で明るく、誰とでも仲良くなれる絵にかいたような優等生だった。

 教室の隅で気配を消している航生とは対極の存在。接点はなく、個人的な会話もほとんどなかった。

 紗月に母が入院している事実を知られ、航生は面倒だと思った。女子は安直な同情や詮索をしたがる。彼女がお節介を焼こうとしたり、クラスメイトに話したりしたら厄介だった。

 だから学校でひとり自習している彼女に『母の話は、誰にもしないでほしい』と釘を刺した。

『わかった。約束する。島君、私と病院で会って気まずそうだったから、元々そんなつもりも無かったけどね』
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