『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 乱暴な言い方だったにも関わらず、なんでもないような顔をしてこう言った紗月は、そのあと一切詮索もしようとしなかった。

 安堵した航生が、彼女の悩んでいる数式を解いて見せたのは、たまたまノートが目に入ったからだ。いつもならそこまで踏み込まない。だが、書いては消し、何度も試行錯誤した痕跡の残るページを目にした途端、正解を示してやりたくなったのだ。

『島君! 私に数学、数列だけでもいいから教えてくれない?』

 航生が数学が得意だと知った紗月は、必死な表情でこう頼み込んできた。どうやら予備校には通わず、独学で大学合格を目指しているらしい。

(まあいいか……数列くらいなら)

 面倒で仕方なかったが、縋るような視線に航生は断り切れなくなり、しぶしぶ受け入れた。

 それから、航生は母の見舞いのあと学校に行き、紗月の隣で勉強するようになった。彼女は毎日予習をしてきて、わからない箇所だけを航生に解説させた。

 今思えば、彼女は航生の邪魔をしないように相当気を遣っていたのだろう。質問する以外の時間は口を閉ざしていた。黙々と勉強するその横顔はとても真剣だった。
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