『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月は少しの説明ですぐに理解できる勘の良さも持っていた。基礎をおろそかにせずしっかり勉強していた成果だろう。

『なるほど、この公式に当てはめればいいんだ!』

 そう言って無邪気に喜ばれると、面倒だと思っていたはずの気持ちが薄れていく。

『島君、今日もありがとう』

 一日の終わりに紗月にそう笑いかけられたら、悪い気はしなかった。

 結局、数列の単元が終わっても、(どうせ俺も勉強しなきゃいけないんだから、学校でやればいいだけだし、ついでだ)と理由付けをして、航生は紗月に勉強を教え続けた。

 最初は数列のだけのはずだったのに、毎日顔を合わせる内に教える範囲は広がっていく。同時にふたりは徐々に打ち解けて話をするようになっていった。

『島君って、どの教科もできるんだね』

 驚いた顔で紗月は感心していた。実際航生は授業の内容はすべて理解できていたし、わからない問題もなかった。もちろん、わざと間違えている、とは言わずに『そうでもない』と受け流した。

 いつも前向きな紗月にも悩みがあると知ったのはもうすぐ夏休みが終わる頃だった。
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