『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 これまでなら物事がうまくいこうがいくまいが、正直どちらでもよかった。本来なら煩わしくて避けていたはずの役割なのに、彼女が喜んでくれるのなら、それでいいと思えた。

 その結果、クラスメイトと関わる機会は自然と増え、航生は自分がこのクラスの一員なのだと、自然と実感するようになる。

(高校生活の終わりに、少しくらいは思い出と呼べるものが残ったのかもしれないな)

 他人事のように捉えながらも、胸の奥では温度のある感情が芽生えていた。

 そして十一月、航生は紗月を母の入院する病院に連れて行った。約三か月ぶり会う母はかなりやつれて見えたはずだが、紗月は驚いた様子を見せずに明るく接してくれ、母もとても嬉しそうだった。

 帰り際に兄と偶然すれ違ったのをきっかけに、航生は紗月へ自分の生い立ちを話した。誰にも明かしてこなかった出自や境遇、そして母の命が長くないという現実も。

 打ち明けても意味はないはずなのに、どうしても彼女に聞いてほしくなったのだ。あのとき航生は、救いを求めていたのかもしれない。

『ご、ごめん……私が泣くなんてお門違いだよね』
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