『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月が涙を零すのを見て、航生は動揺した。しかし、泣かせてしまったという焦りと同時に胸の奥で言いようのない高揚感が広がっていく。

 俺のために、永井は泣いてくれている。

 その事実が、後ろめたさを伴いながらも航生を満たした。同情でも、憐れみでも構わない。ただ、自分の痛みに触れ心を動かしてくれた。その一点だけで、救われた気がしてしまったのだ。

 紗月以外に同じような反応をされてきっと心は動かなかっただろう。

 このとき航生は、はっきりと自覚した。自分は紗月に恋をしているのだと。

 真面目で、屈託なく、それでいて人の痛みに自然と寄り添える。そんな美徳を当たり前のように持った同級生に。

 もっとしっかり紗月の顔を見たくて、邪魔な前髪をかき上げたとき、涙に目を潤ませた視線がこちらを向いていた。

『島君、前髪あげて眼鏡も取ったら実はすごいイケメンだったりする?』

 素顔を見られたのは一瞬。慌てた航生は『自慢できる顔じゃない』と言って素早く髪を元に戻した。

 母親に似ているのが気に入らないと、子どもの頃から典子に何度も蔑まれてきたこの顔が、航生はずっと嫌いだった。

『でも、いつか……』
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