『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 誰にも負けない強さを手に入れたら。なにからも逃げずにいられるようになったら。

 真正面から君と向き合いたいし、君にも俺を見てほしい。

 涙を拭うために差し出したハンカチを握りしめる紗月の隣で、航生は心の底からそう願った。



 パソコンに向かいながら軽くため息をついたとき、デスクの上においておいたスマートフォンが着信を受けて震え始めた。

 画面を確認した航生はわずかに口元を引き結すんでから手に取り、通話ボタンを押す。

「――はい」

《航生、僕だよ》

 耳に入ってきたのは聞き覚えのある声。

「兄さん、お久しぶりです。ベルリンに長期出張中でしたね。どうですかそちらは」

 理仁からの電話だと気づき表情を曇らせた土方を尻目に、航生は親しみを込めた口調で話しかける。

《ああ、やっぱり日本より不便に感じるよ。世界中を転々としていた航生はすごいな》

 専務取締役で、素材事業部を管轄している理仁。これまで海外に行く機会がほとんどなかったので父の命令で航生と入れ替わるようにヨーロッパを回っている。

「お疲れ様です。それで、なにか御用ですか?」

《冷たいな。かわいい弟の声が聴きたくて電話したのに》
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