『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 窓際の席に座ったふたりはしばらく話をしていたが、理仁がスマートフォンを見せた途端紗月の顔が青ざめた。その辛そうな表情を見て航生の胸は痛む。ふたりが店にいたのは十分足らずなのに、その時間は永遠のように感じた。

 やがて店から出てきたふたり。立ち去れないまま彼らの様子をうかがい続けていた航生は息を飲む。理仁が紗月を正面から抱きしめていたのだ。

 痛みを堪える顔のまま、紗月はお辞儀をして足早に去っていった。航生が動けないままでいると、理仁がこちらに気づき、近づいてくる。

『あー、来ちゃったんだ』

 理仁はやれやれという顔をする。

『……永井は?』

『この写真を見せて家柄を説明したら、敵わないって納得してくれたよ』

 理仁はスマートフォンで写真フォルダを見せてくる。そこには振袖姿の女性が映っていた。最近兄が婚約した旧財閥系の家系の令嬢だ。

『でも、黙っておく代わりに、最後の思い出に抱きしめてほしいって言われたから困ったよ。でも、これで航生の噂は流さないでいてくれると思うよ。安心して』

(あんな顔するほどショックを受けて、抱きしめてほしいって頼むくらい、兄さんが好きだったのか)
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