『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『……俺のせいで、迷惑かけてすみません』

 胸を押しつぶされそうになりながら頭を下げる。

『かわいい弟のためだよ』

 なぐさめるように航生の肩を叩いて去っていく兄の後ろ姿を見送りながら、航生は、自分の恋心が紗月自身の手によって踏みにじられたのだと悟った。

 しかし、これだけでは終わらなかった。新学期が始まる前日、再び理仁からから電話が入る。

《友達から聞いたんだけど、航生の噂が広がっているみたいなんだ》

 兄の話によると、理仁の大学の友人の妹が、航生と同じ高校に通う三年生らしい。その繋がりから、ここ数日で航生の出自や、病床にある母の話が、校内で囁かれ始めていると知ったという。

《せっかく口止めしたのに、永井さんが約束を守ってくれなかったみたいだ。ごめん、僕のせいで》

『兄さんが悪いわけじゃないです』

 悲痛な兄の声を聞きながら、航生の胸には、抑えきれない怒りが渦巻く。

 君を信じて、話したのに。寄り添ってくれたと思ったのに。

――『大切な話、打ち明けてくれて嬉しかった』

 そう言って微笑んでいた紗月の顔は、頭の中で黒く塗りつぶされていった。

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