『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました


《航生、ちゃんと聞いてるのか? お前は騙されているんだ、あの子は昔から……》

「ええ、聞いています。あ、すみません。このあと社長に呼ばれていまして。今進めている重要案件の件で、少し詰めておく必要があるんです。では、失礼します」

 しばらく理仁の一方的な話を受け流していた航生はわざとそう言って電話を切り、放り投げるようにスマートフォンをデスクの上に置く。

「義母からの電話を俺が無視し続けているから、兄が掛けてきたようだ」

 軽くため息をついて、冷えてしまったコーヒーカップを手に取る。

「専務になにを言われてたか、聞いていてなんとなくわかりました」

 ひと口含み、強すぎる酸味に顔を顰めていると、土方が新しいコーヒーをテーブルに置いた。気が利く秘書だ。

「すでに結婚相手が紗月だと知っていて、騙されるなって必死に言い聞かせてきたよ。まぁ予想通りだった」

 理仁はどうしても紗月が金目当てだと繰り返していた。妻の悪口を聞かされて非常に気分が悪い。

「未だに俺が言うことを聞くと思っているなんて笑えるな。嘘をつき続けているのはあの人の方なのに」

 航生はゆっくり口の端を引き上げた。
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