『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました


 紗月に感情的な言葉を一方的に投げつけたあの日を最後に、航生は一度も登校しないまま卒業した。

 まもなく母が亡くなり、父に呼び寄せられ大須賀姓に変わる。金銭的に援助してもらえるなら、それでもいいと思った。

 東京と京都の国立大学の両方に合格していた航生が選んだのは京都。なるべく大須賀家と物理的に距離を取りたい。そして、自分を知っている人間がいない場所に行きたかった。

 大学に進学した航生は、外見も生き方も変えずに目立たぬように、淡々と生きていた。ほどほどに頭がいいが、聡明でもない航生に周りはさして期待していなかった。

 父の命でOGセラミックに入社したが、一年ほどで中東に出された。航生を疎ましがった典子の差し金だった。仕事は嫌いではなかった。大学から気まぐれで始めた投資と同じようにゲーム感覚。うまくいったら面白いが、充実感を得られるわけでもなかった。

 高校を卒業して以来、感情は色を失ったままだった。なにかに夢中になることもなく、ただ流されるように生きている。ロボットのように命じられるまま、海外を転々とする人生でも構わない。そんなふうに思っていた。
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