『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
しかし、ひとつだけ航生の心を揺らし続けていたのは、紗月との思い出だった。
彼女と交わした何気ない会話。屈託のない笑顔や、はにかんだ表情、自分のために流してくれた涙もぜんぶ覚えていた。
なにより、航生が〝顔も見たくない〟と言い放ったときの彼女のひどく傷ついた顔が、脳裏にこびりついて消えてくれない。
(でも彼女こそわざと俺を傷つけた。兄さんに振られた腹いせに誰にも言わないっていう約束を破って、噂を流したんだ)
そう何度も自分を納得させようとするが、逆に重い違和感が募っていく。本当に紗月はそんな自分本位の行動をとる人間だっただろうかと。
時間が経てば経つほど、あんな衝動的な言い方をしないで、ちゃんと話せばよかったのではないかと思うようになった。
祖母が亡くなり、航生に一時帰国を命じられたのは、入社三年目の秋だった。
久しぶりに足を踏み入れた大須賀家は、相変わらず居心地が悪かった。葬儀を終えた航生は、できるだけ早くこの屋敷を離れようとしていた。
それでも兄だけには挨拶をしておこうと彼の私室の前に立ったそのとき、少しだけ開いていたドアの隙間から中の声が漏れ聞こえてきた。
彼女と交わした何気ない会話。屈託のない笑顔や、はにかんだ表情、自分のために流してくれた涙もぜんぶ覚えていた。
なにより、航生が〝顔も見たくない〟と言い放ったときの彼女のひどく傷ついた顔が、脳裏にこびりついて消えてくれない。
(でも彼女こそわざと俺を傷つけた。兄さんに振られた腹いせに誰にも言わないっていう約束を破って、噂を流したんだ)
そう何度も自分を納得させようとするが、逆に重い違和感が募っていく。本当に紗月はそんな自分本位の行動をとる人間だっただろうかと。
時間が経てば経つほど、あんな衝動的な言い方をしないで、ちゃんと話せばよかったのではないかと思うようになった。
祖母が亡くなり、航生に一時帰国を命じられたのは、入社三年目の秋だった。
久しぶりに足を踏み入れた大須賀家は、相変わらず居心地が悪かった。葬儀を終えた航生は、できるだけ早くこの屋敷を離れようとしていた。
それでも兄だけには挨拶をしておこうと彼の私室の前に立ったそのとき、少しだけ開いていたドアの隙間から中の声が漏れ聞こえてきた。