『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『相変わらず航生は暗くてボサッとして、なにを考えてるかわからないわね』

 呆れたような声を出していたのは典子だ。

『そうですね。あれが大須賀家の人間だと思うと恥ずかしい』

 ドアノブに手をかけようとした航生の手がピクリと止まる。穏やかな口調で返したのは、兄だった。

『海外に出して正解ね。大した成果もあげられてないようだし、あの調子じゃ、結局ぱっとしないままでしょう』

『ええ。航生にはずっと僕の下でいてもらわないと困ります。身の丈を超えたものを与えるといい気になりますから……そうそう、高校のときも、仲が良さそうな女がいたので一芝居打って引き離しました』

 それはたしかに兄の声なのに、まるで知らない男の話を聞いているような気がした。

『弟思いの兄のふりをしたら、ふたりとも面白いくらいひっかかってくれましたよ。友人の妹が航生の学校にいたので、仕上げにあいつの噂をバラまいてもらいました。航生、相当ショックだったでしょうね』

『それは正解ね。これからも、余計な考えを持たないようにきちんと抑えておきましょう』

 典子の明るい声を聞きながら、航生は静かにその場を後にした。
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