『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 社長に相談されていたのは品質不良が続き、撤退が囁かれたシンガポールの素材工場の件。

 航生は現地の情報を集め、工程と指示系統の見直しと再構築、ピンポイントでの設備投資により撤退は不要、やりようによっては不良率の激減は可能という提言書まとめ報告していた。

「しかし、毎回驚くがよく短期間でこれだけの情報の分析ができたな」

「優秀な部下が付いているからですよ」

 そう言って航生は緩く笑った。

 現在の航生の対外的な肩書は経営戦略室長だが、ほとんどの業務は社長の補佐で、社内のあらゆる事業の経営判断をサポートしている。今では社長も航生のビジネスセンスに傾倒している。

「お前にここまでの才覚があったとは、嬉しい誤算だな。あとは、それなりの家柄から妻を迎えてくれれば、言うことはなかったんだが」

 心底惜しむかのように、ため息まじりで呟いた社長。顔つきは武骨で、美人だった母似の航生とは似ていない。

「以前にも申し上げたはずです。結婚を強要されるなら、僕はこの会社を去っても構わない」

 感情を乗せない返答に、社長は仕方がなさそうな顔をした。

「ああ、わかっている。お前がいなくなったら困るからな」
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