『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 同じ社長の息子であっても、人に取り入るのがうまい理仁と違って航生は重役たちに煙たがられていた。

「根拠に裏打ちされない感情論を展開されても困る」

「それを、にこりともせずに真顔で言うから周りが凍りつくんですよ。あなた社内でなんて言われてるか知ってます? 〝氷の参謀〟ですよ」

 土方はわざとらしい苦笑を浮かべて、両腕を持ち上げた。

「俺に愛想がないのは今さらだろう」

 常に冷静で、情を挟まずに物事に判断を下す姿は冷酷に映るようだ。日本に戻って三か月ほどで航生は周囲に畏怖され、遠巻きにされる存在になっていた。

 大量の業務を次々と片付けている内に、夕刻が近づいてくる。

(今日予約しておいたプリン、忘れずに受け取って帰らないとな)

 窓の向こうで夏の太陽の光が少しずつ和らいでいくのを横目に、航生はふっと肩の力を抜く。

 少し前に買ってみた会社近くある有名パティスリーのプリン。紗月はかなり気に入った様子だったので、同じものを予約してあるのだ。

 結婚から一か月半で、航生は紗月の好みを的確に把握しつつあった。
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