『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 若干失礼だが、気心が知れているからこその発言だろう。

「誰彼構わず愛想を振りまこうとは思っていない」

 航生はパソコンに向き直りながら答える。航生が焦がれるほど望み、笑いかけたいと思うのは紗月しかいないし、彼女さえいればよかった。

「まぁ、いいんですけどね」とうそぶいた土方は、思い出したように続けた。

「すでに資料はご覧になったと思いますが、ブランチソリューションズの整理は着々と進んでいます」

「ああ、そのようだな」

 紗月がかつて勤めていたIT企業、ブランチソリューションズはここ数年で経営状態がかなり悪化していた。表向きは堅調に見えていても対外的なアピールのために先進的な技術に手を出し、開発費用をかけすぎたのだ。足元を見ていなかった結果だろう。買収を持ちかけたらあっさり飛びついてきた。

「本来なら負債を抱えようとつぶれようと関係ない会社なのに、買収するなんて言い出すからどうしたのかと思ったら奥さんが勤めていたブラック企業だったんですね」

「待ちきれなくて、辞めてもらったが」

 航生は、紗月の勤め先の経営状況は芳しくないと見抜いた時点でこの会社の買収を検討し始めていた。
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