『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 こちらが不安になるほど不安定で、張りつめた様子の紗月だったが、徐々にリラックスできるようになり、自然な笑顔が増えている。

 やはり紗月に必要なのは休養だったのだ。本当は家事もさせるつもりはなかったが、なにも役割がないのは真面目な彼女の性格上、逆効果だと思い直して一通り任せている。

「余裕が出てきたのか、最近は仕事をしたいと思っているらしく、困っている」

 やんわりと断り続けているが、紗月がたまに求人情報をチェックしているのを航生は知っていた。

「本人がいいなら、いいんじゃないですか? 最初はアルバイトとか軽いところから始めれば負担も少ないし、奥さんみたいな性格の人なら逆に気分転換になりそうですよ」

 まったくの正論が返ってきて航生の眉間に皺が寄った。

「……心配なんだよ」

 過保護で心が狭い夫だと重々わかっている。でも、紗月に自分の知らないところで二度と傷ついてほしくない。安全な場所でずっと笑っていてほしいのだ。

(俺自身が過去に彼女を傷つけたくせに、よく言うよな)

 心の中で自嘲していると、呆れた視線がこちらに向けられた。
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