『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 すべて聞き終えた土方は、心底信じられない顔をしている。

「彼女は優しいから、きっと俺を許してしまうだろう? だからだよ」

 航生は小さく首を横に振った。


 彼女の前に立っても恥ずかしくない男になる。その上で紗月に謝りたい。三年前から航生はそれだけをモチベーションに生きてきた。

 帰国から一か月後、満を持して航生は紗月に会いに行った。勤め先のビルの前でその姿を見つけた瞬間、胸の内をさまざまな感情が駆け巡った。

 大人になった紗月は目を奪われるほど美しかった。一方で、あまりにも表情が暗く思い詰めているように見えて、声を掛けられなかった。

 航生は紗月の後を追い、居酒屋に入る。そこでも彼女はこの世の終わりのような顔をしていてカウンターに座っていた。

 酔っ払いに絡まれたのを助けたのはその後すぐ。しかし、彼女はまったく航生だと気づかなかった。

(あの頃は碌に顔を晒していなかったから、当然か)

 落胆すると同時に、ほの暗い喜びが立ち上る。

 本当は、あの場で名乗るべきだった。しかし、航生はまた間違える。正体を明かす前に彼女とただの男として話してみたいという欲に流されたのだ。
< 153 / 235 >

この作品をシェア

pagetop