『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 彼女は騙されていたのを知らないから、まだ想いを残していてもおかしくない。

(君は、ずっとあの人を好きでいたのか……?)

 気づいた途端、黒い激情が航生の胸を激しく揺さぶり、理性を丸ごと飲みこんだ。

 兄には婚約者がいて、紗月の想いが報われることはない。なら、彼女ごと俺のものにしてしまえばいい。無理にでもこちらに振り向かせて、手の届く場所に置く。

 そのうえで彼女を悩ませるものをひとつ残らず取り除けばいいのだ。今の自分ならそれができる。

 気づくと航生は彼女の手を握っていた。

『これからは君に一切辛い思いをさせない。……だから、君が欲しい。俺を受け入れてほしい』

 すべてにおいて嘘はない航生の本心。紗月は酔った勢いの戯言だと受け取っただろう。それでよかった。

 そして航生はホテルに彼女を誘い込み、思惑通り自分のものにした。腕の中で震え、健気に咲く紗月への愛しさに追い立てられ、我を忘れた。

 航生は寝落ちてしまった紗月に寄り添いながら、すべて打ち明けて改めて交際と資金援助を申し込もうと決心する。しかし、翌朝、先に正体を気づかれてしまう。紗月はショックを受け、航生を激しく拒絶した。
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