『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
『嘘、島君は私の顔なんて見たくなかったくせに!』

 そう突き放された瞬間、暗闇に放り出されたような気持ちなった。しかし、彼女が立ち去ったあと、じわじわと沸き上がってきたのは自分が確かに彼女の心の傷になれていたという、ほの暗い優越感。

 まともじゃない。愛しい女性の痛みを喜ぶなんて、どうかしてる。

(ごめん永井。それでも俺は引き返さない)

 一刻も早く、紗月を今の場所から切り離さなければならない。そう考えた航生は、数日後、彼女に契約結婚を申し込んだ。

 実際、実家からは典子の勧める縁談を受け入れるよう繰り返し迫られていたから、逆手に取らせてもらった。

 お互いメリットが取れると巧みに主張を重ねていくと、最初は面食らっていたものの、紗月は申し出を受け入れた。

 とにかく紗月の心身の健康を取り戻すのが先決だったから、すぐに退職を手続きさせ、航生との同居も強行した。

 航生が紗月のために動いていたように見えるかもしれない。でも、実際は航生が紗月と一緒にいたかったのだ。事実、共に暮らし始めてから、航生はかつてないほどの幸福に満たされている。
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