『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
(過去を説明して謝っても、優しい紗月は気にしていないふりをして許すだろう。それで救われるのは、俺だけだ)

 今さら真実を打ち明けても、兄を慕っていた紗月をもう一度傷つけるだけ。そして、彼女を信じられなかった自分に謝る資格などない。これまではそう思っていた。

「許されたくないって、こじらせ方が念入りすぎて、笑えないレベルですよ。怖いですって!」

 土方の素っ頓狂な声が執務室に響き、航生は我に返る。視線を向けると部下は自らの体を抱きしめてわざとらしく怯えたような顔をしている。

「これだから頭の良すぎる人は。そんなの、さっさとぜんぶ話して意思疎通した方がいいに決まってるじゃないですか。夫婦なんでしょ」

「そんなに単純な話じゃない。それに、結婚していない土方に言われたくない」

 遠慮のない物言いに返すと、土方は「どこかの室長が、異動の度に僕を連れ回すせいです」と反論している。

「このままじゃだめなことくらい、わかってる」

 低く告げると、土方は楽しそうに顔を綻ばす。
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