『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「そうですか。しかし、冷酷な天才だと恐れられているあなたが、そこまでひとりの女性に対して悩みまくっているなんて、なんだか人間っぽくて、ちょっと好きかもしれません」

「土方に好きになられても、嬉しくないけどな」

 航生はもう一度暮れなずむ窓辺を眺めて、小さく息をついた。



「お帰りなさい」

 マンションのドアを開けると、子気味いい足音がして紗月が姿を見せた。

「ただいま」

 紗月の顔を見た途端、体から力が抜けて血が巡りだす気がする。自然と頬を緩めながら、航生は素早く紗月の様子をチェックする。

(顔色はいいし、声も明るい。体調は悪くなさそうだな)

「これ、君が前に気に入ってた店のプリン」

 航生は手に提げていた紙袋を差し出した。

「わぁ、ありがとう! これ、人気があってすぐに売り切れちゃうみたいなのに。よく買えたね」

 受け取りながら目を丸くして喜ぶ紗月。この笑顔のためだったら店ごと買い占めても構わないと本気で思う。

「たまたまね。あと、クッキーも目についたから買ってみた」

「かわいい。猫の絵柄の缶に入ってるんだ……でも、航生君、毎日のように買ってこないでいいんだからね」
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