『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
奥へ進みながら、紗月は横目で航生をうかがった。ただ立っているだけなのに、周囲を寄せつけない品格のようなものがある。その証拠に、エレベーター内の社員たちは皆、背筋を伸ばし、どこか緊張した面持ちだった。
「お疲れ様です」
その中でひとりだけリラックスした様子の男性がこちらを見て笑いかけてきた。航生の秘書の土方だ。
ここで働き始める前、航生の妻として顔合わせを済ませているので、彼とは面識があった。紗月が就労するにあたっての調整も、すべて彼が手配してくれている。人当たりがよく、頭の回転も速い。航生への物言いも遠慮がなく、お互い信頼しあっているのが伝わってきた。
「お疲れ様です」
にこやかな土方に、紗月も笑顔を返した。
やがて航生たちはエレベーターが途中階で降りていく。ドアが閉まった途端、箱の中に張りつめていた空気がふっと緩んだ。
「なぁ、今の……経営戦略室長だよな」
「そうそう。氷の参謀。社長の懐刀だよ」
男性社員たちは声を潜め、ひそひそと囁き合っている。
(氷の参謀?)
一瞬、聞き間違いかと思った。いつもの穏やかな表情の航生と、物騒な異名がどうしても重ならない。
「お疲れ様です」
その中でひとりだけリラックスした様子の男性がこちらを見て笑いかけてきた。航生の秘書の土方だ。
ここで働き始める前、航生の妻として顔合わせを済ませているので、彼とは面識があった。紗月が就労するにあたっての調整も、すべて彼が手配してくれている。人当たりがよく、頭の回転も速い。航生への物言いも遠慮がなく、お互い信頼しあっているのが伝わってきた。
「お疲れ様です」
にこやかな土方に、紗月も笑顔を返した。
やがて航生たちはエレベーターが途中階で降りていく。ドアが閉まった途端、箱の中に張りつめていた空気がふっと緩んだ。
「なぁ、今の……経営戦略室長だよな」
「そうそう。氷の参謀。社長の懐刀だよ」
男性社員たちは声を潜め、ひそひそと囁き合っている。
(氷の参謀?)
一瞬、聞き間違いかと思った。いつもの穏やかな表情の航生と、物騒な異名がどうしても重ならない。