『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 急に変わった内容に、紗月は思わず聞き返す。

「ええ、大事な集まりだから、航生も声をかけてあげているのになんの返事も寄越さないのよ。そんなに夫婦でいたいのなら、あなたたちふたりで必ず来なさい」

 それは招待というより命令だった。

 返事を待つ素振りすら見せずに踵を返し、典子は黒塗りの車へと戻っていった。


 帰宅した航生に典子の襲来を報告すると、彼は珍しく動揺した表情を浮かべた。

「なにか、されなかったか⁉」

 航生は玄関先で慌てて靴を脱ぎ、こちらに近づいてきたかと思うと、真剣な面持ちで紗月の顔や全身をチェックし始めた。

「大丈夫だよ。暴力振られたわけじゃないから」

「あの人になにを言われたんだ?」

 眉間に皺をよせたままの航生に典子とのやりとりを説明する。

「そうか、あの人、兄の出張に付いて回っていたから日本にいないと思ってたのに、帰国していたんだな。ごめん紗月、気分が悪かっただろう」

 悲痛な顔を浮かべている航生は、エレベーターで会ったときの無表情が嘘のようだ。

「いいよ。本当ならこれが私の役割でしょ。パーティも一緒に行くからね」

 紗月は航生を安心させるように笑顔を作る。
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