『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「いや、あそこに行ったらなにを言われるかわからない。君を巻き込みたくないんだ」

 それは、どこか予想していた返答だった。

(航生君は、優しすぎる……もっと、利用してくれないと私が奥さんでいる意味が無くなっちゃうよ)

 厳しい顔のままかぶりを振る航生を見ていると、焦燥感が湧き上がってくる。

(……ああ、やっぱり私、航生君が好きなんだな)

 もう、認めざるを得なかった。

 結局十年前から、紗月の想いはなにひとつ変わらなかった。彼に拒まれたあのときは胸が張り裂けそうなほど悲しかったのに、嫌いはなれず、ただその痛みとともに想いを胸の奥深くに閉じ込め凍らせてきたのだ。

 けれど穏やかな結婚生活を重ねるうちに、紗月は少しずつ気づいていった。見た目や言動が別人のように変わってしまっても、彼の根底にある優しさは変わっていない。その本質も含めて、紗月は今の彼に強く惹かれていると。

 本当は好きな人とずっと夫婦でいたい。でもそれは図々しい願いだ。ならせめて妻でいる間は最大限に彼の役に立ちたい。これまで止めどなく与えられた優しさに少しでも報いたい。
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