『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「航生君、私、本当に大丈夫だよ。どれだけ嫌味言われても、離婚を迫られても航生君からは離れないし、正々堂々と妻の役割を果たすから」

――あなたと離婚するまでは。

 胸を切なく震わせながら、紗月は航生の手を取った。

「紗月……」

「ここで招待を断ったら航生君がまた責められるでしょ。私じゃ太刀打ちできないかもしれないけど、がんばるから連れて行って?」

 明るく彼を見上げた瞬間、そっと引き寄せられた。

「……きっと嫌な思いをする」

 抱き寄せる腕は優しいのに、声には抑えきれない切なさが滲んでいる気がした。

「大丈夫だよ。でも、作法とか全然自信ないから、失礼にならない程度の準備は必要かもね」

 逞しい腕の中で、紗月はあえて明るい声を出す。

「ありがとう、紗月……それなら、俺も覚悟を決める」

 そう言って、航生は抱きしめる腕にわずかに力を込めた。


 
「素敵でいらっしゃいますよ!」

 それから約二週間後、姿見に映る自分をまじまじと見ていた紗月は、サロンの女性スタイリストに声を掛けられた。

「ありがとうございます」
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