『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 紗月をここに送り届けたあと、自らの準備のためにマンションに戻った航生がそろそろ迎えにくる頃だ。

 すべての仕度を終えた紗月は、サロンの待合いコーナーのソファーで紅茶をいただきながら彼が来るのを待った。

「あ、旦那様がお戻りになりましたよ」

「航生く……」

 スタッフに声をかけられ、反射的に立ち上がった紗月は、店内に入ってきた航生の姿を目にした瞬間、言葉を失った。

 チャコールグレーのスリーピースは長身で均整の取れた彼の体のラインに自然に沿い、シャドーストライプのシャツにダークボルドーのネクタイが映えている。胸元には真っ白なポケットチーフがさりげなく差し込まれていた。黒髪を後ろに撫でつけたヘアスタイリングも気品がある。

 普段目にしているビジネススーツ姿も十分に格好いいが、長身で均整の取れた体にフォーマルな装いは恐ろしいほど似合っていて、年齢相応の爽やかさに加えて、大人の男の色気まで纏っていた。

(かっこいいにも、ほどがある……)

 見とれたまま言葉を失っていると、航生もまた、目を見開いてこちらを見つめていた。

「……紗月、だよな」
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