『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 車を降りた先にあったのは、手入れの行き届いた広い庭園とその向こうにそびえる和洋折衷の堅牢な建物だった。頭ではわかっていたものの、航生はとんでもない世界に身を置いていると肌で実感し、クラッチバックを持つ手が軽く震える。

 すると、航生が横に立って紗月の背中に優しく手を添えた。

「いこうか、奥さん」

(そうだ、怖気づいてる場合じゃない)

 温かい掌の感触に余計な力が抜けていく。航生に腕を差し出され、うなずいた紗月はそっと手を掛けた。
 
 大広間と、庭に面したサロンを使った会場は立食形式で、数十名の招待客が自由に歓談していた。親戚や、昔から大須賀家と関わりの深い家、取引先の経営者などが招待されていた。誰もが着飾っており華やいだ社交場そのものだった。

 ふたりが会場に足を踏み入れると、一気に注目が集まる。最初は航生。次に隣にいる紗月に。

 皆一様にこちらを見てヒソヒソと囁き合っている。

(視線が刺さって体中に穴が開きそう……!)

「話しかけられたら適当に話を合わせてくれてばいいから。それと、俺から離れないで」

「う、うん、わかった」

 航生に耳打ちされて、紗月はこくりとうなずく。
< 178 / 235 >

この作品をシェア

pagetop