『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「あそこで人に囲まれているのが父だ」

 航生の視線を追うと、航生の父、勝一が広間の奥の方で談笑していた。貫録のある佇まいはいかにも大企業の経営者という印象の男性だ。

(横にいるのは、奥様と……お兄さんだ)

 勝一の横には着物姿の典子とスーツに身を包んだ理仁が立っていた。ふたりは航生に気づくと一様に信じられないものを見たような表情になる。特に典子の唖然とした顔は見事だ。

 きっと、典子はこの華やかな場に航生たちを呼んで気後れさせ、肩身の狭い思いをさせようと目論んでいたに違いない。

 しかし、航生の佇まいは気後れどころか、主役ではないかと思えるほどの堂々したオーラを放っていた。

(航生君はこんなにかっこいいんだから、もうなにも言わせない)

 紗月は思い切り溜飲を下げる。見た目だけで人の価値を決めるのは間違っている。でも、紗月は航生を蔑ろにしようとする典子にどうしても一矢報いたかったのだ。

「ふふ、奥様、かなり驚いているみたい」

「……兄さんもね」

 返ってきた声がやけに冷えて聞こえて、紗月は妙な引っ掛かりを覚える。

(お兄さんと航生君、仲が良かったはずよね)
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