『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 大須賀がそう言うのはもっともだ。だが、紗月は首を横に振る。そうしないのにはいくつか理由があった。

「私が辞めたら、同僚に迷惑を掛けちゃうから」

 入れ替わりの激しい経理部で、紗月は6年目にしてベテランの域に達しつつある。辞めたらその穴のしわ寄せが紗月より若いメンバーにいくのは明らかだ。

「それに、私は生きていく上で〝堅実〟がすごく大事だと思っているの」

 話す口を潤すようにアルコールを流し続ける。だいぶ酔いが回ってきたのか、するつもりもなかった自分の信条まで口をついていた。
 紗月の実家は両親と姉、妹の五人家族。紗月は三姉妹の真ん中だ。

 父は現在中小企業の営業職、母は近所の蕎麦屋でパート勤めだ。どちらも楽観的な性格で、父は思い立つとすぐに転職していたし、母は数字に弱く家計管理ができない人だった。揃ってお人好しな反面、将来を見据えて備えるのが得意ではなかった。

 三姉妹だから学費もかかるのに、人に頼まれると『これくらいならなんとかなるでしょう』と言って平気でお金を貸してしまったり、高い商品を購入してしまう。

 おかげで永井家は常に金銭的に苦しい生活を送っていた。
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