『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「これまでご挨拶ができず、失礼いたしました。どうぞよろしくお願いいたします」

 緊張で声が裏返りそうになるのを必死に抑えながら、紗月は頭を下げる。

「……航生が決めたのなら、私は反対しない。航生が仕事に専念できるよう、しっかり支えてくれ」

 一瞬の沈黙ののち、ため息混じりの声が落ちてきた。

「は、はい。ありがとうございます!」

 航生の父にあっさりと認められ、紗月は思わず顔を上げる。

「あなた、おかしいわ! こんな庶民を大須賀家の一員だと認めるなんて」

 そう声を上げながら、勝一の腕に縋りついたのは典子だった。

「航生の嫁は私が認めた女性で構わないって言ってくれたはずなのに!」

 妻の言葉に、勝一はうんざりしたような表情を浮かべた。

「それは、ずいぶん前の話だ。航生がどれほど変わったか、私は何度も説明したはずだ。それでもお前は聞く耳を持たず、ただ自分の思い通りにしようとしていただけだろう」

「そ、それは……」

「理仁には、思い通りの家柄から嫁を迎えられるんだ。それでいいじゃないか」
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