『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 結婚後は、高校時代の話をしないのはふたりの暗黙の了解のようになっていた。紗月もそれでいいと思っていた。穏やかな暮らしの中であえて辛い過去を持ち出す必要はないから。

(違う、本当は話をするのが怖かっただけかもしれない)

 はっきり言い返せない紗月に、理仁の口角がゆっくり上がる。

「あんなに嫌われてたのに、どうやって航生を落としたの?」

 心の柔らかい場所をナイフで切り込まれた感覚がした。

「ねぇ、紗月ちゃん、身を引いてくれないか。航生がなんて言ったか知らないけど、事実、愛人の子でしかないあいつが大須賀家でやっていくには、君は必要ないんだよ」

「必要、ない……」

「航生が多少優秀だろうと、見た目を取り繕くろうと、大した意味はない。なにも持たないあいつには、結局後ろ盾が必要なんだよ。その点、僕の婚約者は旧財閥系の家柄でね。彼女の父親はメガバンクの頭取だ。大須賀家にふさわしい。それに比べて、君は、航生になにを与えられる?」

 容赦のない言葉に、紗月の胸は重く沈んでいく。

(たしかに、私は与えるどころか、航生君に一方的に頼っている)
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