『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 しかし、理仁の口調には紗月以上に悪意を向ける相手がいるように思えた。航生のためを装った言葉の端々に、隠しきれない棘が混じっている。

(……もしかしたらこの人、航生さんを憎んでる?)

 これまで考えもしなかった可能性に気づき、紗月はクラッチバックを持つ手に力を籠めた。返す言葉を探し始めたとき、グイッと肩が抱き寄せられた。

「妻になんの用ですか、兄さん」

「航生君!」

 紗月を守るように立っていたのは航生だった。冷たく厳しい眼差しを向けられ、理仁は目を丸くして肩を竦める。

「そんな怖い顔しないでくれ。僕は、紗月ちゃんと楽しく話していただけだよ」

「そうですか。俺には紗月を追い詰めているように見えました。それで、このあとは俺には紗月に迫られたと嘘をつくつもりですか?――十年前と同じように」

「え……」

「なんのことかな?」

 目を丸くする紗月の前で、理仁が笑顔を深める。

「俺は、ぜんぶ知ってるんですよ、兄さん」

 航生はふぅ、と息を吐き過去をなぞるように当時話し始めた。
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