『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 航生は淡々とした調子に兄に尋ねる。

「そうだったかもしれないね。そもそも、昔のいたずらなんて僕はたいして覚えていないけど」

 あまりにも軽い調子で開き直る理仁を前に怒りが込み上げ、紗月はグッと喉を詰まらせる。

 すると、航生が一歩理仁に近づいた。

「すっきりしてよかったです。それと兄さん。いろいろ調べていくうちにちょっと小耳に挟んだのですが……あなたが婚約者以外の女性と交際しているっていうのは、たちの悪い噂ですよね」

 声を潜めていたが、その不穏な内容は紗月にもしっかり聞こえてきた。

「……なにを言っている」

 理仁の表情に初めて動揺の色が浮かぶ。

「無責任な噂ほど厄介なものはないですからね。早く消しておくことをお勧めしますよ……では僕らは失礼します」

 そう言い置くと、航生はぽかんとしたままの紗月の手を取り歩き出した。

「航生君、もしかして十年前のことちゃんと覚えてたの?」

 紗月は速足の航生に引っ張られながら声を上げる。
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