『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 航生は紗月の隣に腰を下ろし、正面に佇む離れをまっすぐ見つめた。もしかしたら航生は、母との思い出を懐かしみにここへ足を向けたのかもしれない。

 だったら、余計な話はしまいと紗月は黙って彼と同じように建物に視線を向けた。

(航生君はここで、お母さんとふたりだけで住んでいたんだ)

 粗末ではないが、先ほどまでいた豪奢な母屋とは明らかに趣が違う質素な造りの離れ。物理的にも完全に切り離されていて、幼い航生がどんな気持ちでここで過ごしていたのかと想像すると胸が痛んだ。

「高校の頃の話、俺はあえて避け続けていた」

 航生は軽くこちらに体を向けて、口を開く。

「やっぱり、覚えていたんだね」

「ああ、忘れたことなんてなかった。でも、俺は君が兄を好きなのかもしれないと思っていたんだ」

「え、わたしがお兄さんを? それはないよ!」

 紗月は驚いて即座に否定する。

「あぁ。今ならわかる。でも、君が兄とコーヒーショップで話をしていたとき、俺は外で見ていたんだ」

「え、そうだったの?」
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