『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
「本当は今日、帰ったあとに順を追って君にすべてを説明するつもりだった。でも、兄が君に話しかけているのを見ていろいろふっとんだ。驚かせてごめん」

 航生はすまなそうな視線をこちらに向けた。

「ううん、気にしないで。でも、なんでお兄さんはそこまでしたんだろう」

 別に付き合っているわけでもない高校生のふたりを、わざわざ仲違いさせる意味が理解できない。それに簡単にバレる可能性のある嘘だ。

「理由、俺にはわかってるよ――あの人とはちゃんと決着をつけるつもりだ」

 諦めと虚しさ。そして、決意が滲む声を落としたあと、航生は一度息を整えた。

「俺は、君に謝る資格なんてないとずっと思ってきた。でも、これから先へ進むために、どうしても言わせてほしい」

 彼の視線は紗月にまっすぐに注がれていた。

「あの頃の俺は弱くて、自信もなくて、君を信じられなかった。『顔も見たくない』なんて、取り返しのつかない言葉で君を傷つけて、本当に、すまなかった」

 目を瞬かせる紗月に向かって、航生は頭を下げた。

「航生君……」

 名前を呼んだ瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。
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