『顔も見たくない』と振られた御曹司に十年越しで執着されていました
 ほんの一瞬、言葉を切ってから、航生は静かに続ける。

「でも、ごめん。後悔はしていない」

 彼は見たこともないくらい真剣な顔でこちらを見つめていた。

「俺の初恋は、紗月なんだ。そして、今も気持ちは変わっていない。むしろ、日に日に厄介なほど重くなってる」

 切実な色を帯びた瞳と声に、紗月は言葉を失う。

「愛してるんだ。君を」

 低く、揺るぎない声が夜の空気を震わせて、風にゆっくりと馴染んでいく。

「航生君……」

 もしかしたら、夢をみているのかもしれない。そう思った。

「契約なんかじゃなくて、本当の意味で妻になってくれないか。一生俺の傍にてほしいし、俺も誰よりも君の一番近くにいたい」

 真摯な言葉が積み重なる度に、紗月の鼓動が存在を主張し始める。

「航生くんの、必要なものって……私、なの?」

 喉を詰まらせて問いかけると、航生の表情はいっそう引き締まった。

「俺に必要なのは紗月だけだ。他にはなにもいらない」

 なんのためらいもなく返されたその言葉は、紗月以外見えていないかのような危うさを孕んでいた。それでも胸の奥は甘く揺れ、押し込めていた本音が心の底からせり上がってきた。
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